情報提供について
ー情報提供制度と実務上の留意点ー

 第三者の特許出願が権利化されるのを未然に防ぐ手段として、情報提供制度があります(施行規則13条の2)。また、情報提供は、成立した特許権に対しても行うことが可能となっています(同13条の3)。

 情報提供は、匿名で行うことも可能ですが、情報提供があったことは、出願人、又は特許権者に、その旨が通知されるため、留意が必要となります。

 例えば、出願中のケースであれば、実際に審査請求がされてから情報提供することが好ましいでしょう。情報提供があると、特許庁は、出願人にその旨を通知することから、情報提供があったとの通知が契機となって、元来、審査請求する予定の無かったものが、審査請求されてしまうかもしれません。
 経済事情、経営上の判断、場合によっては、出願人の管理不備等の理由によって、出願しても、そのまま審査請求されずに、みなし取り下げされる可能性もあることを考慮すれば、審査請求前の情報提供はしない方が賢明と考えられます。
 また、企業が倒産、合併等して、特許を受ける権利が第三者に移ってしまう可能性もあり、その譲受人は、情報提供があったことで、とりあえず権利化を考えることも予想されます。

 実際に審査請求がされると、それが決着するまでには長期間を要しますので、公開公報が発行されて気にはなるかもしれませんが、審査請求がされるまでは待った方が良いでしょう(審査請求がされてしまえば、情報提供しても問題はありません)。なお、実際に審査請求があったか否かについては、特許庁HPのJ-PlatPatの「経過情報検索」をこまめにチェックしていれば分かります。

 また、権利化後の情報提供につきましても、無用な係争に発展したり、巻き込まれたりする可能性がありますので、しない方が無難でしょう(平穏であればそのままの状態としておくのが良いと考えます)。

 なお、実際に係争事件になってしまった場合(係争事件に発展しそうな段階)においては、権利化後の情報提供については効果的と考えられます。
 例えば、権利者が、実際に侵害警告をしてきた、或いは、警告はないものの自社の取引先やユーザに対し侵害行為をしている等の情報を流布しているような場合、情報提供することで権利者側に無効理由の存在を知らせ、係争事件の拡大や、そのような行為に歯止めを掛けることも可能となります。

 また、侵害裁判において、無効審判を請求することなく特許法第104条の3の抗弁をした場合では、その抗弁の根拠となる情報については、随時、特許庁に情報提供した方が良いでしょう。権利者が特許庁に対し訂正審判を請求する可能性があり、訂正審判が請求されれば権利者以外(被告)は関与できませんので、侵害裁判で使用した無効の根拠となる情報については(それ以外の有力な情報についても)、随時、情報提供すべきです(第168条第3項、第4項の規定があるとはいえ、情報提供することに越したことはありません)。

 なお、情報提供できる資料については、「書類」に限定されるため、侵害裁判における抗弁において、公知事実に関し人証や物証を挙げた場合の取り扱いが問題になるかもしれません。このようなケースであっても、その内容を書面化して提供すれば良いでしょう。そのような情報を提供したことによって不利になることはなく、むしろ独立特許要件を判断する際の一助となる可能性はあり得ます。

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